その日は高校生の夏休み。まだ日の高い夕方だった。近所の中学生と自宅から少し離れた海で泳いでいた。砂浜が続く海岸に面したその海は、あまり沖で泳ぐと潮の流れが速く危ない。それに陸に戻るためには沖に出るときの四倍の体力が要ると脅かされていたこともあって、そこそこのところを泳いでいた。
それでも泳いできた跡をたどるように陸の方を見ると、青い空とその青を映した海が、木々の緑と砂浜の白からなる二つの帯を挟んでいる。その白い帯の上に人影が見えた。こちらに向かって手を振っている。どいて欲しい、というジェスチャーに見えた。何かが始まるのだろうか。
そろそろ泳ぐことにも飽きていたので浜に戻ってその何かを見届けることにした。浜にはそこだけ鮮やかなパラソルが開いていた。近くで遊んでいたらしい子供たちが遠巻きに座って見守っている。私と中学生の連れは海の反対側の盛り上がった砂の山の影に陣取った。
浜には黒っぽい服を着た男が二人いた。手に何かを持っている。そして小さなテントらしきものの中から、一人の女性が現れた。彼女は何も身に着けていない。まるで映画のシーンのように、波打ち際まで進んで海水に両手を浸して戯れ、そして笑顔を浮かべながら陸に向かって歩いてきた。それは妄想ではなく現実。その姿はまるでビーナスのように綺麗だった。
女性の体は、かくも美しいものだったのか、と初めて知った衝撃の夏休みだった。
その一行はカメラマンとその助手、そしてモデルだった。一行が去った砂浜には、試し撮りに使ったと思われるポラロイド写真が落ちていた。沈む夕日をバックに、砂浜で横になった女性モデルの姿が写っていた。
それから、そのビーナスを見かけたことはない。
-2006/7/27-28
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