「人生なんて楽しいことはほんの少しで、残りは辛いことばかり」というため息に共感する人も多いかもしれません。しかし、人間はこの楽しさとつらさの比率を逆転させようとしてもがき続けます。そしてついに遺伝子の意志によって人間が動かされていることをつきとめ、その意志から自由になろうとしているのか、探求を続ける最近の動きは大いに興味のあるところです。
かつての米国で白人に自由を奪われる奴隷としての身分を余儀なくされた人々はリンカーンによって解放されました。ただしその奴隷解放はアメリカの分裂を防ぐための手段であったとも聞いています。それは最近の遺伝子解明の動きが人間のあくなき探求心の結果と言うより、ビジネス・チャンスを得るための手段としてその動きが加速していることに似ています。
自分の容姿や才能が親から受け継いでいると言うことは安心感や逆にあきらめをも連想させる事実です。ところがたまにトンビがタカを生む理由が分かりません。なぜ二つと無い個性が存在するのかも分かりません。
- 親から何を受け継いでるのか?
子供がその親の血を受け継いでいるという遺伝の話は授業で習ったのですが忘れてしまいました。あらためて調べてみると受け継いでいるだけではなく二つと無い個性をも作り出していることが分かります。
ご存じのように遺伝学の基礎を築いたのは植物学者であり、修道士でもあったオーストリアのメンデル[Gregor
Johann Mendel 1822-1884]です。メンデルスゾーンではありません。修道院の庭でエンドウの人工交配による遺伝実験を行い、「メンデルの法則」を発見しました。この発見も生前には認められずに1900年の再発見まで埋もれたままになっていたそうです。メンデルが書いた論文は「雑種植物の研究」というタイトルで岩波文庫から発売されています。
メンデルは先に法則を考えそれを説明するために実験を行ったのではないかと言われています。実験データがあまりに法則にあっているからというのがその理由です。現在ではDNAによって遺伝子が受け継がれることが分かってきました。
- 多様な個性を生むDNAのしくみ
一人の人間を構成する細胞の中には父親と母親の遺伝子が一つづつ入ってペアになっています。細胞の一個一個に両親がいるようなものです。ところが両親そのものではありません。
両親から子供が生まれる過程で、卵子に精子が結びついて受精卵が出来ます。顕微鏡でみたときに染料に良く染まることから名付けられた染色体は、一つの細胞の核の中に父親23個、母親23個をあわせて46個が存在します。このように母親と父親の2セットの染色体を含む体細胞と違い、精子や卵子は生殖細胞と呼ばれ、それぞれ23個の染色体しかありません。
これはもともと体細胞に存在する46個の染色体に含まれる母親のDNAと父親のDNAが合体(交換)して全く異なる別のDNAが出来上がることを意味しています。その合体は偶然に行われ、無限とも言える組み合わせが考えられるため、地球の総人口が50億いても一卵性の双生児などを除くと一人として同じ遺伝子を持つ人はおらず、そこに生物学的な個性が生まれることになります。しかもこの個性が一つ一つの精子や卵子で異なっていることも驚異です。
父親と母親が結婚するという偶然(運命?)、どの精子とどの卵子が結びつくかという偶然、体細胞から生殖細胞がつくられるときのDNAの組み合わせの偶然。 こうして父親と母親のDNAを受け継いでいながら父親と母親とは違う個性が生まれるからこそトンビがタカを生むこともあるのでしょう。
人が出会いを求めずには居られず、一人では生きられないと感じるのはやがて出会う人同士が母親になり父親になり、別個性を持つ子供を残し、それぞれの子供がその個性に応じて弱みと強みを持ち、予期せぬ災いの中で、右に行く人が居れば左に行く人も居るから誰かが生き残る可能性が高くなります。これが遺伝子が生き残ろうとする意志の現れだということになります。
最近になって人類が遺伝子解明を進めるのはその条件が整ったと言うこともありますが、遺伝病に苦しむ人々を始めあらゆる病気に苦しむ人々がより多くの子孫を残し、その多様な個性が人類(遺伝子)の生き残りに役立つ時期が来たという、これも遺伝子の意志の現れではないかとさえ思います。
- 人類のルーツ: ミトコンドリア・イブ
気の遠くなるくらい昔の先祖が実は同じ人だと分かることは、何かと争いの種の尽きない人達の間でさえ、共通の話題をきっかけにして理解が深まるかも知れません。DNAを解明する過程でミトコンドリアDNAに着目し、人類のルーツを探るミトコンドリア・イブという仮説が発表されたのは1987年でした。
しかし、そのサンプル数が少ないため定説とはなっていませんでしたが、1999年1月22日に行われた全米科学振興協会年次総会でペンシルバニア大学のサラ・ティ
シュコフ博士のグループが新人(人類)がアフリカで発生し、新人の出現は 10万年から15万年前と結論づけました。
- ミトコンドリアとは何か?
ミトコンドリア[mitochondria]は細菌類などをつくる単純な細胞(原核細胞)より複雑な植物・動物・カビやキノコなどの菌類をつくる細胞(真核細胞)のなかに含まれている小器官だと説明されています。人間のすべての細胞にも含まれており、細胞の中でエネルギーを作り出し、脳や筋肉が働く上で重要な役割を果たしています。そのエネルギーの低下が老化につながるのではないかと考える人もいます。ミトコンドリアの働きが悪くなって様々な症状を示す「ミトコンドリア病」という名の病気もあります。
よく言われるDNAは細胞の核の中にあり、核DNAと呼ばれ、ヒトの設計図が含まれています。核DNAは細胞の中に2セットしか存在しませんが、細胞の中には数百個のミトコンドリアが存在し、さらにそれぞれのミトコンドリアの中にミトコンドリアDNAが5〜10セット存在します。このミトコンドリアDNAは同じく細胞内に存在する葉緑体のDNAとともに核外DNAと呼ばれています。より多くのエネルギーを必要とする部分(部位)の細胞にはより多くのミトコンドリアが存在するようです。
ミトコンドリアDNAにはミトコンドリア自身の設計図が含まれています。細胞内で動き回ることを考えると、いかにも生き物のようです。このため細胞内に”いる”と表現する人も居ます。ミトコンドリアは動物細胞、葉緑体は植物細胞とも呼ばれているようです。ミトコンドリアの起源はバクテリアのような細菌で細胞内に共生しているとする考え方(細胞内共生説)がありますが、生きてゆくために必要な遺伝子が不足しているという理由などから、細胞から内側に膜が成長して出来上がったのではないかという考え方(膜進化説)もあります。
- なぜ母由来なのか?
さて、そのミトコンドリアのDNAは母親からしか受け継がないと言われています。これを母由来と呼んでいます。どうして母親からしか受け継がないのでしょうか?
繰り返しになりますが、人の命は一個の受精卵から始まりますが、それは精子と卵子が出会った結果です。かつてNHKの番組で精子が卵子を目指して競うようにつき進む姿が映像化されました。編者はその映像をみたとき感動して目が潤んだのを良く覚えています。
さてその精子が先へ進むためにはエネルギーが必要です。そのエネルギーを作り出しているのが、精子の中の生殖細胞に含まれるミトコンドリアです。しかし、卵子にたどり着く頃にはその多くが消耗し、卵子の撃退に合って卵子の中には入れません。一方、卵子は精子に比べ大きくミトコンドリアは存在し続けて残ります。
■結論
結局観音様のてのひらの上を行ったり来たりしていただけだということに気がついた孫悟空は、ある日、観音様のこれからの予定を書いたメモを見つけました。これを書き換えることで観音様に勝てるかも知れない。
ところがそんな悟空の行動さえ、実は織り込み済みだったのではないかということが最近の遺伝子解明や操作を試みる人間達の動きと重なります。自分はとんでもないことをしでかしてしまったと考えることさえ織り込み済み。そうした多様性を求めているのが遺伝子の意志ではないかという気がします。それはきっと遺伝子(人類)が生き残るために必要なことであるに違いありません。ただし、一人一人の人間のことまでは考えてくれていない、それはそれぞれが考えるしかありません。
■参考リンク
コラム作成に当たり参考にしたホームページです。
-2001/8/18
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