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秋の虫の音と日本人の関係


 ラクダの背に絹を積み込み、中国を出発してタリム盆地のオアシスで休みながら旅を続け、パミール高原を越えて西アジアから地中海沿岸に達したとき、絹は降ろされ旅が終わります。中国特産の絹を運んだことからシルクロードと名付けられたこの道がNHKのドキュメンタリーで紹介されたころから日本人の多くがシルクロードを喜多郎の音楽と共にイメージするようになってきました。もちろん中央アジアに広がる静寂の砂漠をラクダと共に旅しても、ウォークマンでも持ってゆかない限り、喜多郎の音楽は聞こえてきません。しかし、もうすでに多くの日本人にとってのシルクロードはつねに音楽と共にあるのだろうと思います。

 秋が近づくと、縁側にススキを飾って十五夜の月を眺めながらコオロギや鈴虫の虫の音を楽しむ風景が頭に浮かびます。そこには月明かりに浴衣を着た一人の女性がいて、虫の鳴き声を味わいながら夏の終わりと秋の気配を知るあまりに日本的とも言える風景です。ここで想像される虫の鳴き声が雑音であるはずがありません。赤とんぼが飛んでゆく夕暮れの空が赤いように日本人の多くが共有する風景と言えます。

 日本人以外の多くの国々の人達が虫の音を雑音だと感じるらしいという通説はどうも間違ってはいないようです。日本人以外のなかにはドイツ人はもちろん、韓国人も入るようです。なぜそうなのかと疑問に思い、その理由を研究した人もいます。日本人が虫の音を左脳を使って言語として処理しているのに対して、日本人以外の人達が右脳で処理するからだという説です。

 しかし、左脳で処理するから虫の音を聞き分け、味わうことができるというより、もしかしたら日本人はコオロギなのか鈴虫なのか、虫の名前を思い浮かべながら音を聴くために言葉を処理する左脳が働くのではないかと個人的には考えています。

 このコラムを書いている間にたまたまラジオから鈴虫の鳴き声が流れてきました。小さな鈴をころころといくつも鳴らしたような音です。たしかに心地良い音に聞こえます。この鈴虫の鳴き声はPTSD【心的外傷後ストレス障害】の治療にも効果があるという報告があるそうです。それが本当だとすれば、効果があるのは日本人だけかも知れません。

 マツムシの鳴き声を”ちんちろりん”と教える『虫のこえ』という童謡の作曲者は分かりませんが、『夏の思い出』に曲をつけた中田喜直さんは生前、「童謡を聴いて育った子供のこころは荒(すさ)まない」という趣旨の信念をもっていたそうです。そうかも知れません。日本人はただコオロギや鈴虫の音を聴いているのではなく、小学生の頃くらいまでにできあがった”虫の音”についての焼き付けられた心地良い風景と共に聴いていることだけは確かなようです。

-2002/9/9



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