PC製造大手のIBMは、最近「ビジネスはゲームだ」というテレビ広告を流しています。広告で使われている”ゲーム”の意味はビジネスを含むあらゆる分野の競争をゲームの得点争いにたとえて研究対象にするゲーム理論に基づいているようです。
なぜ今、ゲーム理論なのでしょうか?そしてそれは何の役に立つのでしょうか?早速調査を開始しました。
ネットを探してみるとゲーム理論が数学の一分野であることが分かります。そしてこれは最近・・・、と言っても昨年封切られた映画の影響が少なからずあるようです。タイトルは『ビューティフル・マインド』で、アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞などを受賞しています。
映画は1999年に発表された本”A beautiful mind”を原作というか参考にして作られています。この本自体は1994年にノーベル賞を受賞したジョン・ナッシュという名のゲーム理論創始者の一人の半生を描いた伝記です。ナッシュのノーベル賞受賞を期に彼に興味を持った経済学者でありジャーナリストでもあるシルヴィア・ナサーによって執筆されました。
本と映画について書かれたサイトを調べてゆくにつれ、その映画が見て損はない傑作であること、そしてDVDが発売されたばかりで、ビデオもレンタルされていることを知りました。さっそく近所のレンタルショップに行き、一泊二日で借りてきて見てみました。
なるほど・・・、たしかに見ても損はない出来です。しかし、ゲーム理論の映画と言うより、統合失調症のために幻覚に苦しむナッシュと、その夫を支える妻アリシアの30年間の闘いが、見ている人までが統合失調症にかかったかのような、どこまでが現実なのか分からなくなるサスペンスタッチで描かれています。やがて幻覚とのつきあい方を身につけ、奇跡的に回復したナッシュは1994年のノーベル賞授賞式で公演、感動と安堵(あんど)のシーンを迎えることになります。
映画の中にはゲーム理論のなかの”ナッシュ均衡論”が閃(ひらめ)くシーンがあります。学友等と共にバーにいたとき、ブロンド娘を含む女性3人がやってきて、口説こうという話になります。合コンでより多くのカップルが生まれるためには一人の人に集中したのではうまく行きません。これは古くはフィーリング・カップル、最近でもみられる”ねるとんパーティ”の集団見合いに見られます。いかにしたらより多くのカップルが生まれ、フラれる人を減らせるか・・・、ナッシュは映画のなかで以下のように表現しました。
”最良の結果は全員が自分とグループ全体の利益を求めると得られる”
この考え方を論文にまとめ、担当教官にみてもらったときの評価は”アダム・スミス以来の150年間を覆す飛躍的な理論”というものでした。
ゲーム理論は”利害の対立する事態にある集団の行動を数学的にとらえる理論”とされ、経済現象の分析や軍事的シミュレーションなどに応用されています。ナッシュ以外にもフォン・ノイマン(J.
von Neumann)やモルゲンシュテルン(O. Morgenstern)が創始者だとされています。
(大辞林第二版)
ゲーム理論は創始以来どのように応用されてきたのでしょうか?
1955年にはノイマンが、双方が核を持てば”核抑止”が働いて核戦争を防ぐことができる、という「核戦争における防衛」を発表しています。ゲーム理論は双方が冷静で合理的な判断をするということが前提になっているため、冷静で合理的な判断ができないと推測される”テロ国家”が核を持つことは危険だという考え方になり、核拡散に反対する核保有国の論拠にもなっていると思われます。
企業であればそれぞれの企業の都合だけではなく、消費者や競合他社の出方などをみながら分析する”戦略的分析手法”を可能にすることになります。ゲーム理論を持ち出すまでもなく、普通の企業ならどこでもやっていることだという気がしますが、ゲーム理論が教えるところは、答えが得られるかどうかは別にして、”最善の解答がどこかに存在することを教えてくれる”ということでしょうか?
逆に消費者やライバル企業の動きを無視し、自分たちの都合だけで動く企業はいずれ敗者になるということをも意味しています。
今月の17日には小泉総理が北朝鮮を訪問しますが、こうした外交交渉の場でもこのゲーム理論が応用されています。おそらく、数値化して方程式をつくり答えを出すことは困難でも、お互いが感情的なわだかまりを棄てて、合理的に得になることを考えれば必ずお互いが何らか得をする均衡が存在することをゲーム理論が教えています。
日本側は拉致問題を前進させたい。一方北朝鮮は日本からの援助が欲しい。北朝鮮がらちされた人達の居場所と現状をはっきりさせ、再会のだいたいの時期を明らかにすれば前進です。これには北朝鮮の方としてもたいした費用はかかりません。そうなれば国交正常化の話も始まり、戦後補償、援助といった話も進みます。補償額や援助額も、北朝鮮の人口が日本の6分の1程度であること、一人あたりのGDPが日本の数十分の一以下であることなどを考えても、賠償額が日本にとって大きな負担になるとは思えません。
こうしたさまざまな分野に応用可能なゲーム理論は数学理論であるためそれだけではノーベル賞は取れません。その理由はノーベル賞に数学賞がないからですが、経済学の分野への貢献が大きいということでノーベル経済学賞の受賞となりました。受賞者はナッシュ (John
Nash)、ハーサニ (John C. Harsanyi)ゼルテン、(Reinhard Selten)の
三人です。
たいていの人は”利害が対立する集団”のいずれかに属してます。その集団に、あるいは個人にさえ最良の結果があることを教えてくれるゲーム理論の応用分野はさらに広がりそうです。
-2002/9/16
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