自宅でビデオのコレクションを持っていた知人は、そのうち好きな番組がいつでもみられる(ビデオ・オン・デマンド)時代になるだろうということでコレクションをやめてしまいました。集めたビデオが数千巻にもなり、置く場所に困ってしまったこともコレクションをやめた理由の一つだろうと思います。
それから年月が経ちました。まだビデオ・オン・デマンドの時代になったとは言えません。しかし、そのための条件は着実に揃いつつあると言えます。
好きなテレビ番組やニュース、映画などを、録画が面倒なビデオを使わずに楽しみたいという需要は多いはずです。受信料の徴収に手を焼くNHKだって、契約者にIDを発行し、そのIDとパスワードを入力すればNHKの膨大な番組をネットで観ることができるようなしくみをつくることは不可能ではありません。そういうサービスを追加すれば、受信料も集めやすくなる可能性があります。
これはコンテンツを多く蓄積している新聞社も同じで、新聞購読者にIDを発行し、無料あるいは格安でデータにアクセスできるサービスを追加すれば、もはや紙からのニュースは要らないと考え始めている読者たちをつなぎ止めることもできます。放送大学がこのしくみを取入れれば、学生は必要な講義をいつでも受けることができるようになります。
ブロードバンド化が進み、通信速度は56Kbpsから8Mbpsへと高速化が進んでいます。しかし、たとえば好きなテレビ番組をネットを通してダウンロードしたり、ストリーミングで楽しもうとしても、まだ安定した高画質では楽しめません。
コンテントを持っている放送局のサーバーから自宅までが安定して8MbpsでつながればS-VHSやDVDくらいの画質で番組を送ることは可能になります。しかし現状では運が良ければという条件がつきます。
個人的に興味を持った番組を各テレビ局等が用意したサイトのライブラリーから検索し、マウスをクリックして見られるようになるためにはまだ時間がかかりそうです。しかし、その時代が意外に早く訪れそうな動きもあります。
ここ十年でバックボーンの通信容量は約1000倍になっているそうです。このバックボーン高速化を支える技術と将来性を考えてみました。
- WDM【Wavelength Division Multiplex】波長分割多重技術
この十年間に光ファーバーの本数を1000倍に増やしたという訳ではなく、すでに敷いている一本の光ファイバーに何種類もの光を重ねて送り、後で分けて取り出すようにした技術です。「いままで緑色の光だけ使っていたが、七色の光を使うことにしたため通信容量が七倍になった」という説明は、半分正しくて、半分は間違っていると言えます。
調べてみると光ファイバーに使われている光の波長は、より遠くへ届けるために都合の良い1.2ミクロンから1.3ミクロンの波長の光が使われています。これは赤外線であることを意味するため緑色などの可視光線では無いことが分かります。さらに7倍と書きましたが、現在は100倍くらいですから、100種類の波長の光を使っているということになります。
現在では1000種類の波長を使う技術が開発されているため、一本の光ファイバーでテラビット(1000ギガビット)単位のデータを送れる時代も近づいているようです。将来的には一人一波長の時代、つまり一人で一ギガ、つまり現在が50キロ(ダイヤルアップ)ならその2万倍、現在が5メガ(ADSL)なら200倍のデータをやりとりできる時代がやってくるということになります。
- ダークファイバーの有効利用
ヤフーBBが格安のADSLを実現した理由の一つに、使わずに眠っていて光が通らず暗いダークなファイバーの活用が言われました。ヤフーがADSLに参入することを表明してから、もうすぐ一年になります。最近のダークファイバーの事情はどうなっているのでしょうか?
お金や食料なら使わずに置いていても後で使うことができますが、ダークファイバーは使わなければ、その容量と期間との積が損失になります。ADSLの普及でプロバイダーと利用者の間を意味するラストワンマイルは高速化が進んでいますが、最近は地方のプロバイダと東京などを結ぶバックボーンが細いことが問題になっています。
地方のプロバイダーがダークファイバーを借りてバックボーンを増強しようとしても、1)第一種通信事業者ではないので借りられない、2)高すぎて借りられない。という問題があります。
昨日の5月24日、Yahoo!の関連会社ビービーテクノロジーの子会社が第一種電気通信事業者の認可を受ける予定という報道がありました。この子会社がダークファイバーを借り受け、それを小さく分けて地方のプロバイダーに提供すれば、各プロバイダーの事情に合わせたバックボーンの増強が可能になります。
- MPLS【Multiprotocol Label Switching】
いくら光ファイバーを使って通信が早くなっても、それらの接続点に位置するルーターで詰まってしまっては意味がありません。高速道路の料金所で渋滞するようなものです。ルーターは送るべきデータの次のルートを決めるコンピューターなのでその処理を速くする必要があります。
ネットワークの編み目に当たる接続点では、やってきた小包のようなパケットデータを次にどこに送るかをIPアドレスを見て決めていたのですが、パケットに宛名を示すラベルをつけて処理を高速化する技術がMPLSと呼ばれているようです。これは郵便物の仕分け作業を早くした郵便番号のしくみに似ています。
- 光ルータ
シリコンバレーという名前が示す通り、ネット社会を支えるIC、CPUをつくる半導体はシリコンという元素でできています。"Si"ですが、このシリコンは天然に多く存在する石英や砂の成分”SiO2”(二酸化珪素)の酸素を抜いてつくります。でもこの半導体は電気を通すことによって働いています。
光にデータを乗せ通信を高速化しても、その接続点(ルータなど)を通るたびに電気信号に戻していたのでは速度が遅くなります。そこで光のまま接続や進路変更できないかということになりました。光でどうやって進路を分けるかと言えば、その波長の違いによる性質を使うようです。
一本の光ファイバーに混ぜられた100種類の波長の光をあとで分けるためにプリズムの技術(分波器)が応用されています。あらかじめデータの行き先を波長で分けておけば、プリズムで行き先を分けることもできます。こうした光を制御する部品もシリコンの基板上につくられています。シリコンを酸化すれば光を通すガラスができます。
好きな番組がいつでも見られる時代になるためには、通信環境だけではなくソフトがデジタル化され、蓄積される必要があります。地上波デジタル放送が始まれば各放送局はコンテンツのデジタル化を余儀なくされます。これはつまり、ビデオ・オン・デマンドの時代は地上波デジタル放送が始まる来年以降にジワジワやってくるということでしょうか?
-2002/5/25
■参考リンク
■参考文献
- 放送大学講義 電子技術と社会(’00)
第7回 第2世代の光ファイバー通信 担当講師:伊澤 達夫(NTTエレクトロニクス株式会社 社長)
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