ヨドハチカメラへの近道を歩いていたら、後ろの方から声がした。「もし、そこのお兄さん」。振り返ってみるとそこには占いのおじさんしかいない。「お代はいらないからちょっと見てあげよう」。そこには無視できない異様な空気があった。「これから買い物が・・・」と言いながらも足は占い師の方に向き、気がつけばおじさんの目の前に座っている。
「あなたはこれから冷蔵庫を買おうとしていますね」。どうしてわかったんだと思っていると、「顔に冷蔵庫の相が出ている」という。さらに占い師は続けた。「近頃は省エネ技術が進んだとかで、わけもわからず冷蔵庫を買い換えるやつがいる。省エネとは言え冷蔵庫は結構値が張るからね」。
だからどうだと言うんだ、と思っていると、「だからその省エネ冷蔵庫を買った方がいいのか占ってあげようというわけだ。お代は払いたくなったときにでも払ってくれればいい」。そう言い終わらないうちに大きな虫眼鏡を取り出し人の手をつかまえて手相を見始めた。
「あなたは料理を作るのがあまり好きじゃないね」と言うので、たしかにそれほどでもない、と答えると、「じゃあ、まだ買い換えない方がいい」。でも今のままだと一年間で一万円くらい余計に電気代を払い続けなきゃいけないからもったいない。それに地球環境にも良くない、という顔をしていると、
「地球環境のためだと思って新しい冷蔵庫を買っても、一方では古い冷蔵庫を粗大ごみにすることになる。そう考えるとどちらが環境に良いのかわからなくなる。電気代がもったいない、というが冷蔵庫を買い換えたら新しい冷蔵庫を買う金がかかるから、どちらが得だかわからなくなる。だからもったいないという話もとりあえず考えないほうがいい」。
たしかに今使っている冷蔵庫はまだ使える。壊れてしまったら買わざるを得ないだろうが、今は特にその必要がない、ということか。私は納得し、店に行くのを止めて帰ることにした。
金を払うほどでもないと思い、占いのおじさんに礼だけ言って帰ろうとすると、おじさんの関心はもう次に移っていた。目の前に迷っている様子の女性がおり、おじさんはその女性に声をかけた。「そこのお姉さん。お代はいらないからちょっと見てあげよう」。
冷蔵庫が壊れたら新しいのを買うかどうか迷う人はいない。迷うということはまだ壊れていない、ということか。いくら省エネとは言え、壊れてもいない冷蔵庫を粗大ゴミにするのは気が重い。
占いのおじさんは女の人の手相をみるなり、「新しい省エネ冷蔵庫を早く買ったほうがいい。今使っているやつはもうすぐ使えなくなる」。そう言われた女の人は納得したのか、唇を結び目を大きく開いて店に入っていった。一体何を基準に、買う買わない、を決めているのだろうか?
そう疑問に思って占いのおじさんを観察してみた。すると、おじさんは手相を通して今使っている冷蔵庫をイメージしているようだ。本人に代わって、古い冷蔵庫と話をし、新しいのを買ってもいいか聞いているらしいのだ。おじさんは古い冷蔵庫を成仏させるターミネーターか。こんなおじさんが実在するなら会ってみたい。
-2006/5/6
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