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消えたコンビニ



 久しぶりに前を通ったらそこは蛻けの殻(もぬけのから)だった。別の店も入っていない。そこにはコンビニチェーンの一つ「ミニストップ」が入っていた。コンビニの中ではいちばん愛着のある店だ。

 空が赤く染まる夕暮れの街角で、恋人を連れてしゃれたバーに入り、バーテンダーに「いつもの」と言ってみせる。ありがちなこのシーンは我が人生のなかでは一度も実現されていない。そもそも外に飲みに行かないし、行きつけのバーもない。

 なじみのバーは無いがなじみのコンビニはあった。朝と夕方の二回、毎日のように店に通えば次第に従業員の顔を覚えてくる。従業員のローテーションもわかってくる。そして向こうもこちらの存在に気が付いてくる。

 60代くらいの男性は声が大きくハキハキした人で夜勤担当。「世間様とはさかさまです」などと言って笑う声が聞こえてきたりした。しかし定年後にこの年代の人たちがよくやるガードマンなど、意外に夜勤の仕事は多い。

 正義感が強く面倒見のよい60代の女性が店長だった。酒を買おうとした未成年の客にはきちんと断る。従業員にも「未成年にはお酒を売っちゃだめよ」と教えていた。

 その店長からレジの使い方を教わる新人の姿もみられた。気の弱い高校生くらいの女の子が慣れない手つきと自信のなさそうな声で応対している。”がんばれよ”と心のなかで応援した。

 その子も、日が経つにつれだんだん慣れてきて表情が変わっていった。

 朝には毎日サンドイッチを買った。特定の曜日にきれいなお姉さんがレジを担当することに気が付き、わざとその人のレジに持っていく日々が続いた。

 カバンに入れるのでレジ袋はいらない。毎回繰り返していると向こうも覚えてきて。そのうち何も言わなくても袋なしで渡してくれるようになった。おつりをもらうときに触れる柔らかい手の感触は今でも忘れない。

 そんな店から、いつの間にか店長の姿が見えなくなった。従業員はいつものように応対していたが、結局店長の姿を見ることは無かった。

 たいていのコンビニエンスストアは、店長であるコンビニ経営者がチェーン店本部にロイヤリティを支払うフランチャイズ方式でその店を経営しているらしく、店長が本部の社員だったりする直営店は少ないという。

 だからほとんどのコンビニは、経営者である店長がいなくなればその店も消える運命にある。

-2007/9/17




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