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歯医者はなぜ神経を抜きたがらないのか?


 「もったいないので炎症をおさえてかぶせましょう。それでも痛むときは神経を取ります」診察台の上で横になった私の耳元で歯医者さんはこういいました。「もったいない」とは、奥歯に残る神経の価値を認めているからこその発言でしょう。冷たい水がしみる程度なら抜くべきではない、と考える理由は何なのでしょうか?

 奥歯に最初の激痛が襲ったのは朝早く会社に着いてからでした。朝食のピザパンを食べた後しばらくしてからです。これまでに感じたことのない痛みでした。欲や得を放棄したくなる痛みです。ここは会社なので転げまわるわけにもいきません。このまま帰ってしまおうかと思いましたが、帰ったところで痛みが取れるわけでもないし、歯医者はまだ開いていません。ジッと静かに我慢していたら、一時間くらいで痛みが引いてきました。

 それから奥歯が痛み始めた理由を考えてみました。思い当たるのは、ここのところ新製品ラッシュが続いた缶チュウハイです。毎日のようにいろいろと飲んでいたことを思い出しました。それまではもっぱら甘くないビール類だったのを、宣伝につられて飲み続けていたわけです。炭酸飲料としてのチュウハイには糖分が多く、糖分を栄養とする虫歯菌を私はせっせと育てていたことになります。

 虫歯菌という名の細菌は、ご存知のように糖分を食べた後に酸を出し歯を溶かします。虫歯になりやすいかどうかは、遺伝にもよるようですが、わざわざ虫歯菌に栄養を与えて育ててはいけません。それに気がついてから、甘いチュウハイはピタリと止めました。しかしそれは後の祭り。次の激痛がやってきました。

 それは帰宅後でした。神経どころか歯を全部抜いてもらいたいような痛みです。寝ても起きても痛みは治まらず、ついに我慢できずに、鎮痛剤のバファリンを飲みました。一時間くらい経った後、痛みのない安らぎの時間が訪れました。おかげさまでその夜はぐっすりと眠れました。

 しかし考えてみると、鎮痛剤は虫歯菌をやっつけてくれるわけではなく、中枢神経に作用して痛みを感じなくするものです。いくら痛みが引いても問題の解決にはなりません。これはちょうど痛みを脳に伝える神経を抜いてしまうようなものです。しかも、神経を抜いても虫歯の進行が止まるわけではないため、痛みのないまま歯が溶けてゆく可能性があります。

 痛みという負の感覚だけではなく、物を噛んだときの、やわらかいとか歯ごたえがあるとかいう料理の微妙な感覚とか、口に入ったものが暖かいとか冷たくて美味しいという感覚も神経とともに失われます。神経がなければ、A級の美味しい1万円の料理が、B級の千円の料理にまで落ちてしまうかもしれません。「もったいない」と、歯医者さんが神経を抜きたがらない理由が、わかったような気がします。


-2006/7/16



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