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若きシェフのたくらみ


 ある街道沿いに新しいレストランがオープンした。その街道は県道だが渋滞することでよく知られている。街道沿いに広めに取られた歩道を歩いていた時、いつの間にかその店が開店していることに気がついた。そこでためしに昼食をとることにしたのだ。

 店の前に立っていたら女性従業員が入り口のドアを開け中に案内してくれた。そこまでは良かったのだが、案内されたテーブルがたまたまスピーカーのそばで音量が大きくちょっとうるさい。しかも出てきたお冷やには柑橘系の香りがついていた。食器洗い用洗剤を連想してしまった。

 料理はランチだけでABCの三種類しかない。そこで値段が真ん中のBランチを選んだ。950円でデザートや飲み物が付く。料理が出てくると間もなく私はいつものようにいつものペースで食べ始めやがて食べ終えた。もしかしたらこの料理は旨かったのかも知れない、と気がついた時には遅かった。習慣とは恐ろしいもので、味わいの時間は放たれた矢のように過ぎ去ってしまったのだ。

 ご存じのように、食によって得られる快感は旨さとそれを味わう時間の積に比例する。

 主菜を食べ終えた頃、頭に白く長い帽子を被った若いシェフがやってきた。「食事はいかがでしたか」。”しまった。このシェフは本気だ”と思った。感想を語るほどじっくり味わってはいない。油断していた。

 食後に各テーブルにシェフが出てきて客と会話するのは珍しくないが、Bランチくらいで出てきた理由は何だったのだろうか?シェフとの会話で、スープも主菜もシェフの新しい試みであったことが解った。

 ご存じのように、料理の旨さは料理人の熱意に比例する。

 それからしばらくするとデザートがやってきた。いろいろな香りが重なりあいながらもくどくならず涼しげなデザートに仕上がっている。たしかにこのような創作デザートはチェーン店には無い。気のせいかアイスコーヒーまで旨く感じる。主菜を味わい尽くせなかったことが悔やまれる。デザートつきで一食千円を下回る値付けがされているのはどうしてなのだろうか?おそらくランチを夜のディナーへの誘い水ととらえているからに違いない。

 店を出て入り口に戻り店の名前(MELANGER*)を確認したがフランス語で書かれており発音が解らない。帰宅後にネットで検索してみたがホームページも見つからない。

 こうなったらディナーをじっくり味わうしかない。シェフの企みにまんまと乗ることになるが、それもまたうれしい。

-2005/7/17
-2006/8/18 (*追加)


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