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サトウキビと人間の甘くて苦い関係


 サトウキビは甘い汁を含む茎を特長とするイネ科の植物で、熱帯から亜熱帯の地域で栽培されています。

 動物と違って植物は”動けない物”と分類することができますが、それは動物である人間が勝手に考えることです。植物に言わせればあくせく動き回らなくとも生きてゆける物が植物だということになります。

 植物である一本の木の横に仲良く一人の人間が並んで立っていたとしましょう。木は地中と空中から養分を吸い取り、日光を浴びて光合成を行い必要な栄養分を作り出すことができます。

 ところが横に並んだ人間はただ立っているだけでは腹は減るし、トイレには行きたくなるし、おまけに太陽の光を浴び続けると日焼けと呼ばれる火傷(やけど)をしてしまうため、立ち続けることはできません。何はともあれ、足を使って日の当たらない木陰まで移動し、木の実を食べては食欲を満たし、藪の中に入っては用を足すことになります。

 こんな人間の姿を植物が見ていたら、おそらく、動物とは”動かないことには生きてゆけない物”だと分類するに違いありません。もちろん、植物はそうした動物の性質を利用してしたたかに自分のなわばりを広げているのです。

 花粉を喜んで運んでもらうために蜜のありかを知らせる花を咲かせ、種を遠くに運んでもらってより広範囲で芽を出すように、動物たちの好む果物を実らせては惹きつけます。

 蜜や実が動物にとって魅力的であればあるほど、その植物の数も増え、絶滅を防ぐことができることになります。サトウキビも刈られずに放って置かれるとやがてホウキの先のような花を咲かせます。放って置かれると言うことは動物たちにとって魅力が不十分だと考えることもできます。このままでは命が途絶えてしまう可能性さえあります。ところが、花を咲かせて種ができるということは新しい遺伝子を持った品種があらたに生まれることを意味します。運が良ければより魅力的な品種に生まれ変わる可能性があります。

 栽培しやすくて十分に糖度も高くて甘いとなれば人間達は競って栽培してくれます。茎の上の部分を切り取って、別の畑に植えることでサトウキビはその数を増やすことができます。この栽培方法なら同じ遺伝子が受け継がれるため、栽培のしやすさや糖度がそのまま受け継がれることになります。

 植物であるサトウキビがその生命を受け継いでもらうために用意した動物への褒美(ほうび)となる甘味は人間にとっては魅力的でありすぎたのかも知れません。

 甘味は江戸時代の日本でも珍重されました。薩摩藩は黒砂糖を産する奄美大島を支配下に置きながらその存在を幕府に隠し続けたほどです。黒砂糖の産地であったために島民は薩摩藩の圧政に苦しみましたが、薩摩藩の財政は潤いました。潤いすぎたために江戸中期には幕府から木曽川の治水を命じられます。この工事によって洪水に苦しんでいた村は恩恵を受けることになりましたが同時に薩摩藩は多額の出費を強いられ、藩士の切腹、病死も相次ぎました。その墓は今でも桑名駅の海蔵寺に残されているといいます。

 甘味の魅力に引き寄せられたのは日本人だけではありませんでした。


 大航海時代の1494年、南米を東西に分ける境界線が引かれ、西をスペイン、東をポルトガルが手に入れます。

 ポルトガルはヨーロッパの人々にとって嗜好品であった砂糖で儲けようと考えていました。そのためには原料となるサトウキビ栽培に適した熱帯地域と労働者が必要です。

 北東部の海岸沿いは高温多湿で肥沃な土地が広がっていたため栽培に向いており、この地域から開発が始まりました。

 土地は手に入れました。次は労働者です。そこでもともとこの地域に住んでいた先住民にサトウキビ畑で働いてもらおうと考えていたようですが、足りませんでした。白人が持ってきた病原菌、つまり天然痘、はしか、インフルエンザに全く免疫が無かった先住民の80%から90%が亡くなってしまったからです。

 働き手を失ってしまったポルトガル人はプランテーションで働く労働者をアフリカの黒人に求めました。本格的なサトウキビ栽培の歴史は黒人奴隷の歴史と共に始まったと言えます。

 19世紀末に奴隷制度が廃止されましたが、甘味を求める人は減るはずもなく、開拓した分だけ土地が与えられるという条件を出したために、ブラジルには世界中から労働者が集まりました。ヨーロッパ人も日本人も労働者としてそして農場経営者として夢を描きながらブラジルに移住しました。

 ブラジルの東北部は今でもサトウキビの産地で、そこで働く大人の労働者の一日の賃金は日本円に換算すると500円だという話もあります。

 人間は甘味となる砂糖の65%をサトウキビから、35%をテンサイから得ていると言われています。人間は甘味を得るためにサトウキビという植物を利用している言えるわけです。ところが、サトウキビから見ると、甘味を好み世界中に居住する人間という種(しゅ)によって、東南アジアまたはインドにしかなかったサトウキビの分布地域が世界中の熱帯、亜熱帯の地域に広がったことを意味します。

 ところが人間はサトウキビの分布地域を広げてくれるただの(益)動物ではありません。人間にとって都合の良い特定の植物の数だけを増やすことがこの後も人間にとってプラスであり続けるはずはないということに気がつき始めたからです。サトウキビと人間の甘くて苦い関係はこれからも続くことになりそうです。

-2002/8/16


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