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走り出したくなるとき


 編者はある南の島で生まれ、そこで迎えた中学三年生の3月、先生が転任で島を去ることになり、当時一学年六十数名のうち見送りに行ける人は港に集まろうということになりました。当日港に着くと、予想より多くの人が集まっていました。

 紙テープを持った先生を乗せたフェリーが港を離れたとき女子のひとりが沖へ向かって走り出し、さらに二人、三人と続き、5、6人位の列になりました。どこに行くのだろうと後に続くと彼女たちはコンクリートの防潮堤の斜面を駆け登り、さらに先端へ向かっています。あまりに急いで走ろうとするので滑ったら海に落ちるのではないかと心配したほどです。フェリーは港を出るときに右に針路変更をするため防潮堤を中心にして弧を描くように進み、防潮堤の先端に近づきます。そのフェリーに追いつこうと走っていたのです。先端に着いた彼女たちは大声で先生の名前を呼び、手を振り、船が小さくなった後は泣きながら、戻ってきました。自分は彼女たちに声をかける事もなく家に帰りました。

 それから数年後の3月、島を離れた編者はNHKのニュースでどこかで見たような光景を目にしました。港で先生を見送るシーンです。制服を着た生徒が防潮堤まで走って手を振っている場面もありました。ずいぶん似たようなことをしているとこがあるものだと感心しながら良く見ると編者の生まれた島でした。

 それからさらに数年後の3月、祖母の危篤の知らせで島に帰った編者は用事を済ませて帰途につき、フェリーに乗りました。甲板の上からぼんやりと見送る人たちを眺めていたら、乗船券売り場や土産物屋のある建物の屋上から垂らした横断幕が目につきました。”XX先生ありがとう XXX中学校”という意味の内容が書かれていました。フェリーが港を離れて防潮堤の先端に近づこうとしていたとき、もしかしたらと思ってその先端の方に目をやると期待通りに、制服を来た女子中学生らがまた危なげに走ってきて、手を振っています。彼女たちの声はフェリーのエンジン音と風にかき消されて小さくなっていきましたが、訴えるものは十分伝ってきました。その姿を見ているうちに先生ではない自分でさえ熱いものを感じました。
 今でもこの島に生まれたことを誇りに思っています。

-2000/11/17


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