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軒先を貸しただけでどうして母屋まで取られてしまうのか?


 「すみません。少しだけ雨宿りさせてください」それは雨が降るある日のことでした。若い旅人が軒先にやってきて雨宿りをさせて欲しいと頼んできたのです。軒先だけなら良かろう、とそのときは深く考えもせず貸してやりました。ところが降り始めた雨が長梅雨の時期だったため、旅人は長居をすることになったのです。

 ずっと軒先にいるのもなんだろうから、と中へ入れたのが良くなかったのかも知れません。そのうち店番までやってもらうことになったのですが、旅人は商売がうまかったのです。客の扱いが良い、とたちまち評判になり、店は繁盛しました。そこまでは良かったのですが、雨が降り止む頃には旅人は店の主人に収まっていたのです。これも「軒先を貸して母屋を取られる」話です。 


 「人を支配しなきゃ一人前じゃない」一人前の人間として扱って欲しかった遠い昔のギリシャの若者は、親から独立して仕事を覚えやっとのことで奴隷を持つことができました。これで彼の生活はすこぶる便利になりました。奴隷が身の回りの世話を全部やってくれるからです。仕事を肩代わりしてくれる奴隷まで現れました。そんな”一人前”の幸福な生活が過ぎたころ、大事なことに気がついたのです。

 ”もう、奴隷なしでは生きてゆけない。”彼はすっかり奴隷に依存し自分1人では生きてゆけない、半人前の人間に成り下がっていることに気がついたのです。この話はヘーゲルの「主人と奴隷の弁証法」と呼ばれていて、だから、人を支配しても一人前の人間にはなれない、のだそうです。


 ある野球チームのオーナーの軒先に、聞いたこともない名前の会社の、若くて金とアイデアを持った社長がやってきたそうです。プロ野球の経営をやりたいから軒先を貸して欲しいと頼んできたのです。オーナーは使用人らに、絶対に中に入れないように、そして軒先さえも貸さないように、と命じました。

 ”そんな奴を中に入れたら、どんなグッドなアイデアを出されるか解らない。球団の経営難問題が一段落する頃には、その若造がプロ野球界の主人(ドン)になっているかも知れない。”オーナーは新参者の才能を見抜いていたのかも知れません。さすがに永年の勘が働き、軒先を貸して母屋を取られるようなへまはやらないようです。

 しかし、選手を支配しようとする経営者は半人前なので、いずれは一人前の経営者に取って代わられるに違いありません。

-2004/7/10





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