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『孫子の兵法』で考えるイラク問題


 中国の歴史の中で紀元前5世紀頃と言えば、春秋・戦国時代にあたります。その時代は上下の身分が凄まじいくらいに入れ替わる下克上の時代であると同時に、孔子、老子、荘子、そして孫子(そんし)らが生まれた中国思想の宝庫とも言える時代でした。

 当時は周が力を持っていたとされてはいますが、実際は列国が戦いを続けていました。孔子は周が平穏に列国を治めることを望み、古典に学び、その方法を考えていたようです。従って、孔子の教えは戦国時代が終わった後で、国の秩序をいかに維持するかという点に力点が置かれているように思えます。

 一方、孫子(孫武)の教えは戦国時代に生き残るための教えと言えそうです。呉の王に従えた孫武(そんぶ)は列国の一つであった楚(そ)を破り呉王に勝利をもたらすという功績と、その兵法を記した書を残したとされています。

 孔子を開祖とする儒教は今でも中国思想の中心をなしていると言われていますが、中国最後の王朝となった清(1616-1912)の時代には儒教思想は否定されています。当時は欧米列強、特にイギリスに薬と称してアヘンを代金の代わりに押しつけられたあげくにアヘン戦争に破れます。さらに新興国であった日本との戦争にも破れます。国と国とがせめぎ合う時代には孔子の教えが邪魔になると考えたようです。孫武の教えに学んでいたら、中国の歴史はかなり変わっていたように思います。

 ここではイラク問題で語られていることの多くを、孫子の兵法に当てはめて考えてみたいと思います。


<アメリカにとっての兵法> 。   。

 兵法によれば『戦わずして勝利するのが最善の策』とあります。イラクに攻撃をせずにフセインを国外にでも追いやり、民主政権をつくれば良いはずです。ところが、わざわざ負担の大きい攻撃を進めようとしているように見えます。これは兵法に反しますが、どういうことなのでしょうか?

 これまでイラクは国連の決議を無視してきたと言いますが、国連の負担金を払ってこなかったのはアメリカであったはずで、いまさら国連を無視してきたイラクが悪い、と”正義”をふりかざされても説得力がありません。

 イラク問題で勝利するのが目的なら、国連でも何でも利用できるものは利用しようとしているのでしょう。それなら、勝利とは何を意味しているのでしょうか?

 それが国益を守ることで、どの国にとっても安全とエネルギーと食糧を安定的に確保することは国としての基本です。日本が想像している以上に、アメリカは安全、つまりテロに対する脅威、そして石油に代表されるエネルギーには敏感なのかも知れません。

 戦前の日本はアメリカに石油を絶たれて追い込まれ、真珠湾攻撃で米国民を激怒させ、結果的に米国民の戦意をあおり、ルーズベルトの思うつぼにはまったという話は有名です。エネルギー問題はしばしば文明や国を破滅や戦争に追いやるようです。

 戦うとなれば『敵を知り己を知れば負けはない』という教えに従い、イラクを知ることになります。イラクにはサウジに続く石油があり、ぼやぼやしているとその利権をフランスやロシアに取られてしまうことも分かります。そこでイラクに勝利することにうまみを感じます。

 と言っても、アメリカだけが独走するわけにはいきません。そこで、『不敗のための態勢を整える』ために、イラク攻撃支持を各国に求め、国連を利用しますが、なかなか先へ進みません。

 しかし、勝つためにはタイミングも重要です。その『イラクに勝てるチャンス』を利用するには砂漠地帯があまり暑くなりすぎない時期が重要で、その時期に『勝負を素早くつける』必要があり、そのリミットは3月だと言われています。

 日本にとってはイラクより北朝鮮の方が脅威です。今年は北朝鮮がミサイル実験をする年だとも言われています。これについてアメリカは『兵力を集中させる』という兵法に従う意味でも、北朝鮮に対しては食糧やエネルギー支援を絶って、『相手が疲れるの待つ』という手を用いているように見えます。


 <日本にとっての兵法>

 イラクの国民が言いたいことも言えないフセイン政権下にあり、そこで苦しんでいたとしても日本人にはピンと来ません。それよりは、戦争になってエネルギー事情や経済が不安定になって景気がさらに悪くなることの方が不安材料です。

 つまり、日本にとっては”反戦”の方が得なのです。ところが、北朝鮮の脅威に対して日本は一国ではどうにもなりません。そこで、正義より悪を利する反戦の方が国益であるにも拘わらず、北朝鮮問題まで含めるとイラク攻撃に向うアメリカを支援することが、国益となります。

 すでに指摘されていることですが、”日本がフセインの悪を正すためにアメリカを支持している”、とする政府のスタンスはきれい事に過ぎて情けなくなるくらいです。

 イギリスでもアメリカに尻尾を振ってついてゆくブレア首相の姿が皮肉られているようですが、これからイギリス国民の多くがアメリカ寄りの政府の姿勢を快く思っていないことが分かります。日本も目立たないだけで似たようなものです。

 しかし、そうしないと日本の立場が危うくなるのも事実で、長く続く反戦のパレードは感動的であるにしても、アメリカに逆らうと損をする、ことも事実です。たとえかっこ悪くとも『彼を知り己を知れば百戦殆(あやう)からず』とする、兵法における必勝法なのです。

-2003/2/23   



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