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セーレンが「野垂れ死に」を選んだ理由



 セーレンと言う名のその男性は、最後は路上に倒れて「野垂れ死に」してこの世を去ったらしいのです。辞書によれば「野垂れ死に」とは情け無い死に方のことで、誰も彼の死を見取ってくれなかった、誰からも相手にされなかった、いや、というより嫌われていた、ことを意味しています。

 つまりセーレンは畳の上では死ねないような生き方をしていたことになります。しかし、そういう彼の生き方に憧れる人は世界中に存在するのです。セーレンはなぜ嫌われたのでしょうか?

 それは彼が「真実」を追求したから、ということに尽きるようです。つまりホントのことを語りすぎて嫌われたわけです。

 「真実」を語ることは多くの場合、人を批判することと同義語です。彼はたとえば今から150年くらい前に、「現代の批判」という本の中で、次のようにジャーナリズムとその読者を批判しています。

 大衆(読者)は、(世論を代表すると言われる)「ジャーナリズムが提供する話題に参加することによって、自分が一角の人間になったような気がして満足する」。

 これはたとえば世界や社会の動きに関心を持ってその議論に参加している人の多くが、実はそれを何となく暇つぶしのためにやっている、と語っているわけです。

 大衆の多くは、これと言って定まった信念や使命感に基づいてニュースを見ているわけでも、議論に参加しているわけでもないので、ただの暇つぶしだ、と言ってるわけです。

 こうした事情は21世紀の今も変わっていません。何を考えているのかさっぱりわからないコメンテーターがワイドショーに登場することからもわかります。

 事件が起きると周囲の迷惑も顧みずその現場に殺到するマスコミには、信念とか使命感とかがないんだろうなあ、ということもよくわかります。

 しかしこの醜態は、そういう番組を見ている自分自身の醜態でもあるので、多くの人は、「それを言っちゃオシマイ」だと承知しているわけです。

 自分の中に存在する「醜態」を認めた上で、ホントのことを語り続けるのは大変です。それは語れば語るほど自分だけではなく他人をも批判することになり、やればやるほど人に嫌われることになるからです。

 たとえばここのサイトのようなインターネットの片隅ではなく、テレビやラジオで堂々と、粉飾決算にういて真実を語ることは勇気の要ることです。

 粉飾決算で逮捕され実刑の判決受けた、元ライブドアの社長「ホリえもん」は、一度はマスコミに持ち上げられながら、そのあと地面に引き摺り下ろされた人です。これもある意味気の毒だとは思いますが、問題なのはこのことより、「ホリえもん」より大きな粉飾決算をした日興コーディアル証券が、事実上見逃されたことです。

 「ホリえもん」を散々こき下ろした人が、より大きな悪と言える「日興」の件では何も語らない(マスコミが取り上げない?)のはおかしいと思います。しかし、このことについて、「情け無いことであり残念なこと」だと指摘する経済の専門家もいて、ちょっとホッとしました。

 しかし大きな不正を本気で正そうとすると、より多くの人の血が流れることになります。だから誰もがしり込みしてしまうわけです。セーレンは以下のように語っています。

 「・・・現在でも冒険を好む人はいるし旺盛な好奇心を持っている。しかし一時的な感激に沸き立っても、自分の生活が脅かされるのは御免だと、抜け目無く無感動の状態に戻ろうとする・・・」。

 セーレン・キルケゴール[1813 - 1855 デンマーク]は、実存主義の祖と言われ、自分が納得できる「真実(イデア)」を追求し続けた、言わば「自分探し」の親分のような人です。

 真実の多くは毒をはらんでいるため、たとえば「自分探し」のためであっても、とことん「真実」を追求してゆくと、自分自身の中に潜む毒と向き合う必要が出てきます。それにもかかわらず追求を続けるためには、「野垂れ死に」を覚悟しなければならない、のかもしれません。

-2007/8/15


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