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人はなぜ空を飛べないのか?


 乗り物に乗らない限り、空を飛べない理由はもちろん、人間には翼が生えていないからですが、別に翼が生えていても良かったのではないかと考えることもあります。仮に背中に翼が生えた状態を考えてみます。背中に翼が生えると考えるのは両手が翼に変わってしまうと、その瞬間から器用に使える手を失い、リモコンさえも押すことが出来なくなって、文明が滅んでしまうだろうと思えるからです。

 背中に翼が生えるとまず、通学や出勤風景が変わります。たいていの人は鞄を持って空を飛ぶ方を選ぶでしょう。高所恐怖症はあり得ません。何しろ落ちてしまうことが無くなってしまうからです。眺めを楽しみながら翼を休めるために高いビルの屋上にコンビニやファーストフードの店が並びます。

 買いたい物はその都度買いにゆき、屋上に出入り口が出来ます。自宅にも屋上に出入り口が出来ます。電柱があると電線に触れてショートして焼けこげて事故になってしまうため、電線は地中にすぐさま埋められます。しかし、道路は無くならないでしょう。欲張りな人間には運べない大きな荷物を運ぶ手段はどうしても必要になるからです。

 ここまでなら、別に空を飛べるようになっても困らないような気がします。ギリシャ神話の中にでてくるイカロスは父親から背中に翼をつけてもらいますが、高く飛びすぎて太陽に近づきその熱で翼と背中をくっつけていた蝋(ろう)が溶けて地上に落ちてしまいます。この話をよく考えてみるとおかしなことに気がつきます。太陽に近づきすぎても温度が上がってその蝋が溶けることは無かっただろうと言うことは今なら分かります。100メートル上に上がれば温度が一度下がり、太陽に近づくと言っても太陽までの距離は遙かに遠く、そのまえに空気が薄くなって息が苦しくなり、上に上がることは困難になります。この話は人が翼を持って現実から遠ざかって空を飛ぶことを否定するために生まれた話ではないかとさえ考えられます。

 さて、自分自身はどうなのかと言えば、おそらく、特に今頃の寒い季節になると、温かい土地を求めてふらふらと空に浮かんでしまいそうです。これは住みやすい温度を求めて旅を続ける渡り鳥になることを意味しています。

 そんな生活を続けてゆくうちに、これではなんだか物足りないと考え、そしてどこかへ飛んでゆきたいと本気で考える気持ちを断ち切るために、翼を落としてしまうかもしれません。

 もしかしたら、それを選択したのが人間なのかも知れない。そしてかつて翼を持っていた時代を懐かしんで空を自由に飛び回る鳥たちをうらやましいと思うのかも知れません。

-2001/12/11




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