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感情がもたらす煩悩(ぼんのう)について


 こみ上げてくる感情や衝動に動かされ、思わぬ失敗をすることがあります。自分自分の過去を振り返ろうとすると、あまりにその過去が苦いがためかオブラートに包まれてはいるものの、ほろ苦さを感じる人が多いかも知れません。

 感情的ではなく冷静に思案しながら行動したいと願うことそのものが、しっかりした自分でありたい、と願う”感情”によるものであったりします。つまり、感情は自分に対して手痛い失敗をもたらす原因になると同時に、そのような失敗を繰り返したくない、と考える自分自身の意志さえも支えている、と考えられるのです。この感情とは一体何なのでしょうか?


<本能としての感情>
 ”感情”を辞書で引いても、”喜んだり悲しんだりするこころの動き”としか説明されていません。ここで言う”こころ”とは、自分自身が感じ取れる、つまり意識できる部分を指しているようです。

 人間も他の動物や植物と同じように、生物としての営みのため、つまり生命維持のために、人体システムが働く中で、感情を意識させて動機付け、次の行動に誘う、という例が多くみられます。

 生命維持のためには栄養をとり続ける必要がありますが、そこで腹が減れば、ひもじさ・イライラ・不安感が意識に上ってきます。そうやって一分でも早く食事をするよう促します。そして食事中は美味なるものにありつけた喜びを、無事に食事が終わると、次は満足感・安心感・幸福感を与えてくれるというわけです。

 個人に栄養を与えるだけでは、命は一代で終わってしまいます。生命は次の世代に引き継がれなければなりません。ご存じのように男女を結びつけるために恋愛感情がもたらされます。それが血液の流れさえもコントロールして胸をしめつけ、せつない思いが体中を包んで、恋が生まれたことを知らせるのです。

 さて、そんな相手に出会うためにも学校や会社などの組織でうまくやってゆく必要があります。組織に適応しようとするなかでも、さまざまな感情がうずまき、我々に次の行動に移す動機を与えています。感情の中の”怒り”は暴力や殺人など、破壊行為の動機にもなるため、場合によってはもてあます感情です。特に、突然こみ上げてくる”怒り”や”衝動”は、それへの対処法を用意しておかないと、手痛いしっぺ返しが待っています。


<未成熟がもたらす犯行>
 人間には生まれながらに快を求める性質があるものの、成長するにつれ、思うようにならない現実にぶつかり葛藤(かっとう)を繰り返して学習を重ね、直接的な行動にはでないように自分自身を抑えるようになる、とされています。何らかの理由でこの学習が不十分だと、酔った女性を介抱すると称して乱暴を働く、といった失態を招くことになります。

 いくら本人たちが合意の上だったと主張しても、現実社会で要求される行動の抑制、つまり、常識的な手順を身につけてこなかった未成熟さを披露していることは明らかです。逮捕されれば牢屋にぶち込まれ前科者になる上に、容疑が婦女暴行なら、牢屋内でも軽蔑されみじめです。


<煩悩としての感情>
 生命維持のために役にたっているだけでは事足りず、牢屋へのパスポートにさえなってしまう、欲望や衝動の元は、快を求め不快を避ける傾向(快感原則)のためだとされています。ほ乳類の大部分の脳内ではこの快を含む信号を伝えるために、ドーパミンなどの神経伝達物質が存在していることが知られています。

 伝達物質は快を運ぶための運び屋ですから、運び屋が不足すると快や幸福感を感じにくくなる、ということは解りますが、なぜ快を心地よいと感じるのかという問いに対する答えにはなりません。

 この問いはどこか、なぜ甘味は甘いのかという問いに似ています。この問いに対して、甘味には甘いと感じる化学物質(ブドウ糖や果糖、しょ糖)が含まれているからだ、と答えても良いのですがやはり求める答えにはなっていません。

 青鉛筆はなぜ青いのか、という問いも同じです。光には青く見える波長があって、その波長の光を反射しそれ以外を吸収する物質が使われているから、という答えも、はやり求める答えにはなっていません。

 色を識別して感じ取る色覚、うまい物をうまいと感じ取る味覚や食感、さらに快とか不快とか、大きく二つに分かれる感情も、おそらくダーウィンが語ったように、進化の長い淘汰(とうた)のなかの産物、だと考えるのが良いのかも知れません。

 それは最初は毒物を避け栄養のある食べ物を識別するための味覚や視覚であったり、組織や団体に適応し、子孫を残すために感情が備わったのでしょうが、ついでに不幸やみじめさを感じ取る能力まで獲得してしまった、という考え方です。

 欲望やねたみなどの感情や衝動によってもたらされる苦悩は煩悩そのものです。しかし、その煩悩とつきあう方法を獲得してゆく過程もまた、人間に与えられた”快”なのかも知れません。

-2003/6/29




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