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極上の記憶


 体験によって得られた記憶と、映画やドラマなど、再構成された情報に触れて得られた記憶は、うまい具合に脳内で識別がさわれているそうです。従って、どんなにアニメやマンガばかり観ていたとしても、現実と非現実を取り違えることはありません。ご安心ください。

 もし、ありもしない物が見えてしまうようであれば、それはきっと脳内で発生した幻覚という名のエラーです。それでもその正体がエラーなのか現実なのかが識別できれば、それほど悩まされることはないそうですが、その幻覚や幻聴を本物だと思いこんで反応してしまうのが統合失調症と呼ばれる病気だそうです。

 もし目の前に悪魔が現れれば、おそらくその悪魔を追っ払うためにそのへんにある物なら何でも投げつけて追い払おうとするに違いありません。何とも荒っぽく、人騒がせなこの症状は周りの者にとっては大迷惑ですが、本人は必死で悪魔と戦っているわけですから難儀な病気です。

 覚醒剤や麻薬をやれば、やがて脳が壊れてこのような幻覚を見るようになり、しかも本人の努力では元に戻せなくなるので、絶対にドラッグに手を出すべきではありません。

 実は、高い金を出してドラッグを手に入れ、体や生活を壊して一生を棒に振るというリスクを犯さずとも、もともと脳内には太古の昔から麻薬が用意されているのです。これは脳内麻薬と呼ばれ、副作用がないだけではなく、費用もかかりません。ただし、少しばかり時間がかかります。

 脳内では、手に入れたさまざまな記憶を整理して熟成させるという作業をやっていて、毎晩眠るたびに、あたかも記憶を寝かせたかのように、とげとげしさや苦みや冷たさを和らいでまろやかにして、日に日に記憶を熟成させているようなのです。

 なぜこんなことをやる必要があるのでしょうか?

 遺伝子というやつは勝手なもので、生命を後の世代に渡すために、さまざまな欲望を人間たちに与え、我々を煩悩の海で泳がせているわけですが、それだけじゃあ申し訳ないとでも思ったのでしょうか、昔の思い出を極上の記憶にして蘇らせるために、年齢を重ねるごとに熟成が進むようにしているのかも知れません。

 八十を過ぎたお婆さんが夜中にラジオで娘の頃の曲を聴き、とうの昔に忘れたはずの記憶が鮮やかに蘇り、興奮して眠れなくなるのは、きっとこのためです。

 それほど歳を重ねずとも、数年経ったくらいで懐かしく感じられ、かつてのヒット曲が数珠のように連なって次から次に快をもたらずのも、きっとこのためです。

 最近の若い者は、と記憶の中の自分と今の若い者を比べて嘆き、歳を取りすぎたことを図らずも示してしまうのも、きっとこのためです。

 あまりの懐かしさに快が背中を走り、目が潤んでしまうのも、きっとこのためです。

 記憶が、数年過ぎたばかりでもビンテージ振りを発揮することに気がついたなら、きっとやみつきになるに違いありません。

-2004/2/11




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