私がまだ中学校に通っていた頃、
Jは酒の入った一升瓶を持ってやってきた。
頭にははちまき、
顔には笑顔。
Jの到来を知った私は、
父にそのことを告げた。
またやってきたか、と言いながらも、
実は楽しみにしているらしいことが見え見えで、
父は楽しげに彼を迎えていた。
酒飲みの会話はとるに足らないことが多いが、
その中でもJと父の会話はかなり変わっていた。
まるで宇宙人とのそれのように、
周囲には何を話しているのかさっぱり理解できない。
Jは昼間に出会ったらしい、
ある人物について、
その特徴を捉えて真似てみせているようだった。
その人物が眉を寄せて怒っている様子などを、
ちょっとオーバーに表現してみせる。
その顔真似を見た父の、
笑い声が聞こえてくる。
おそらく、絶妙な演技だったのだろう。
Jは私らよりは少しばかり、
海に近いところに住んでいて、
夕方頃になるとやってきた。
父の話によると、
Jは耳が聞こえないため、
普通にしゃべることができないらしい。
たしかにJが発する言葉は、
「パーパーパーパー」としか聞こえなかった。
それでも、
少しばかりの不幸を笑い飛ばせない人に比べれば、
遙かに幸せな人生を送っていたのかも知れない。
-2003/5/19
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