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私はその日近くの大学の学園祭に来ていた。アンパンマンの作者やなせたかしさんの講演を聴くためだ。哲学的な話を期待したわけではなく、有名人の話を聞いてみようと思ったに過ぎない。 会場となった「女子美」の大教室に入ると、BGMとして「それゆけアンパンマン」が流れていた。私の周りには、アンパンマンの登場を期待してか、子供をつれた家族がけっこう来ていた。 ”いくらアンパンマンの作者でも、大学の講演会で子供が何分もつのか”、私は子供たちの反乱を想像し心配になった。 2時になり講師「やなせたかし」が登場した。そしてすぐに講師自身が伴奏なしで自作の歌を歌い始めた。おせじにも上手いとは言えないものの説得力のあるソウルフルな歌いっぷりだ。 そしてOHPを使って絵を描き、スクリーンに大きく写して見せた。おなじみの、アンパンマンやバイキンマン、そしてドキンちゃんなどなど・・・。 そんななかで、哲学者から手紙をもらったというエピソードが語られた。 その哲学者は列車のボックス席で、四歳の孫を前にして本を読んでいたらしい。するとその孫が歌いだした。 「何のために生まれて 何のために生きるのか・・・」。 哲学者は、いかにも哲学的なその問いを四歳の孫が歌いだしたので驚いたのだという。 このフレーズは、ご存知やなせたかし作「それゆけアンパンマン」の歌詞の一部だ。これをきっかけに哲学者は作者に手紙を書くことになったらしい。 アンパンマンの歌詞は、哲学者を動かしたことになる。 「何のために生きるのか」の問いに、哲学者キルケゴールは「イデアのために生きずして何の意味があろうか」と語っている。イデアとは自分にとっての真実であり、真実を求める自らの気持ちに正直に生きることをも意味する。 それゆけアンパンマンでは「今を生きることで熱いこころ燃える」と歌っている。 哲学者ニーチェは、「人生がそういうことであるのなら、挑戦してみよう」と語っている。人生の意味を探しても見つからない。ならば挑戦することによって意味を生み出そう、と考えたのだと思う。 アンパンマンは、正義のために生まれ、おなかをすかせている人たちを救うために生まれてきた。 そんなアンパンマンを生み出したやなせたかしさんが、大学の講演会とは言え、アンパンマンを渇望する子供たちを捨て置くはずが無かった。まるで哲学者サルトルのように自らの哲学を具現化してみせる。 講演の途中でやなせさんは、「今日はゲストを呼んでいます」と語り、やがてそのゲストはステージに姿を現した。 ゲストは、アンパンマンとバイキンマンだった。 BGMも賑やかにアンパンマンは会場を回り子供たちと学生らと次々に握手する。そこには「子供たちの期待を裏切ってはいけない」という正義の味方の根本的なイデアが感じられた。 講演会はやなせたかしさんのエネルギーを激しく消耗し、90分の予定が70分くらいで終了することになった。 しかし、もっとも印象的だったのはこの後だった。 やなせたかしさんが退場するためにステージの袖に向かって歩き出すと、その後にアンパンマンが、さらにその後にバイキンマンが続いた。 並んで歩く姿が実にかっこよかったのだ。 やなせたかしさんは、「てのひらを太陽に」で、とんぼやアメンボを友人にしているが、それでも足りずに、自らキャラクターを創造し、アンパンマンやバイキンマンをも友人にしてしまった。 生きるということは、「無」から何かを生み出すことなのかもしれない。 -2007/10/29 記事関連のお知らせ サイト情報
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