カンボジアのある学校で自分の教え子たちに対して、もっと自分たちや自分たちの国に誇りを持って欲しいと日頃から考えていた先生がいたそうです。そこで入れ知恵をされた先生は、国の誇りでもあるアンコールワットに生徒たちを連れて出掛けることにしました。
日本で言う遠足です。生徒達も偉大な遺産を目の前にして大いに満足し、遠足は成功裏に終わったと言います。この遠足をはじめ、運動会などの学校行事は日本ではあたりまえですが、海外ではそうした行事のある例は少ないようです。カンボジアでも遠足の習慣はなかったと言います。それならどうしてこうした行事が日本には存在するのでしょうか?
どうも、これは明治政府の政策にあったようです。ぼやぼやしていると敵国にやられてしまうので、国をあげて”富国”を図らねばならないと、あれやこれやとやっていたのに、いざ兵隊を敵国に送ってみれば、鉄砲の弾に当たって亡くなる人より、病気になって亡くなる兵隊が多かったそうです。
富国のためには、まず国民の一人一人が体力をつける必要がある、ということに気がついたことから、体力づくりのために体育の授業が始まったそうです。さらに集団のなかで規律を守ることも求められ、運動会や遠足などの行事も喜ばれたのでしょう。
集団行動と規律を守ることが尊ばれたのは、男子生徒のツメ入りの学生服がドイツ陸軍の制服に由来し、女子生徒のセーラー服がイギリス海軍の制服に由来することからも分かります。
カンボジアのある学校で行われた遠足のニュースはメディアを通してカンボジア国内にも報じられ、政府の耳にも入りました。遠足のもたらす効果に政府も気がついたようです。カンボジアにいた日本人がその先生に入れ知恵したとされる遠足はカンボジア国内で奨励されることとなりました。

ところが、世界遺産でもあり、国や自分たちの誇りでもあるアンコールワットはもともとタイのものだと主張するタイの女優の発言を伝えるニュースが流れました。
この発言に腹を立てたカンボジア市民数百人は29日、タイの在カンボジア大使館に乱入、放火を行ったと報道されています。
タイの女優はその発言を否定していて、誤って報道されたとも伝えられていますが、暴徒化した理由は何だったのでしょうか?
暴徒化すれば、とうぜん捕まる可能性があります。自分だって無事では済みません。おそらく、生活に余裕のある人はけっして暴徒化はしないだろうと思います。自分が暴徒化することによって失うものと得るものとを量りにかけ、けっして自分の得にならない、と判断すると思うからです。
暴徒化や暴力の背景には覆せない、つまり自分の努力だけではどうしようもない、”不公平”が存在しているとも言われます。まっとうなやり方ではどうにもならないと分かれば、爆発したくなる人がいても不思議ではないように思えます。
タイもカンボジアも南回りで仏教が伝わった小乗仏教の国で、”念仏”に代表される日本などの大乗仏教の国とは異なり、仏の教えが民衆に染み渡っているはずの国々です。
両国とも王国ではありますが、カンボジアはポルポト政権下で数百万人が殺害されたとも言われ、その後も内戦が続いて国は荒れ、アンコールワットも日本などの援助で修復が続けられているところだそうです。
一方タイは経済発展がめざましい国で、一人あたりのGDPはカンボジアの四倍以上です。陸続きの隣の国同士なら、この差はいろいろと身にしみているはずです。
カンボジアにたまたま生まれた人と、タイにたまたま生まれた人の積み重ねた努力が同じだったとしても、暮らしぶりには四倍以上の差が出ることになります。日頃から感じている不公平感のはけ口を求めているところへ、”アンコールワット発言報道”がされれば、その報道が真実であるかどうかには関係なく、暴徒化へ向かうということでしょうか?
仏の教えも、”不公平”につける薬にはなっていないようです。
-2003/1/30
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