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離脱感はどこまで楽しめるか?


 小学校に上がる前、私は十歳年上の叔母によくくっついていたそうです。その日もあたりが暗くなった頃、坂を上った山の中腹にある叔母の家に泊まりに行きました。途中にある近所の家の竹垣が、懐中電灯で照らされて暗闇に浮かんでいたことを覚えています。そして自宅以外のところで迎えた朝は新鮮でした。しかし残念ながら、どのように朝を迎えその時どう感じたのかについての詳しいところまでは覚えていません。

 旅行先でも、朝になって眠りから覚めて意識を取り戻したとき、見慣れぬ部屋の景色に気づいて昨夜までの出来事をトレースし納得するまで、フワフワした離脱感を楽しめます。地に足が着かず宙に浮いたような離脱感を楽しめます。

 離脱感は属しているところから抜け出すことによって得られる快感、と言えそうですが、自分の属する場所が曖昧で、戻れる場所が無い場合は、快感を得るのが難しくなります。プチ家出は、自分に戻るべき場所があるのかどうか確かめるための行為なのかも知れません。

 空海が修行のために訪れたとされる四国八十八か所を巡るお遍路さんも、戻る場所が無ければ八十八か所を巡り終えてもまたお遍路さんを続けることがある、そうです。

 その昔マンション購入者に行われたアンケートで、今の住まいに住み続けるつもりですか、という意味の問いに対して、半数以上が、今の住まいは仮の住まい、いずれ本来の場所に移るつもり、と答えたそうです。利便性や資金面から、今はやむなくここに住んでいるが、最終的には別のところに移り住みたい、ということだそうです。

 その住まいの形態はともかく、今住んでいる地域に骨を埋めるつもりですか、という問いに、ハイと答えられない人は、自分が本来やるべき事をやっているという手応えを感じていない人、なんだそうです。この世に生まれて今もなお、自分の属すべきところが見つからないから、死に場所もまた見つからない、というわけです。

 世の中には、この世そのものが仮の住まいであって、一生が終わって死を迎えれば人は本来の場所に戻る、という考え方があるそうです。たしかにそうであるとすれば、この世に生きているということは、本来属している場所から抜け出した状態、つまり離脱感を楽しめる状態、となるはずです。

-2004/9/29




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