恰幅(かっぷく)の良い一人の男がある街の市長宅を訪れた。
「実は、新しく出来たレストランのことなんですが・・・。」
彼は周囲を見回し誰もいないことを確認して続けた。
「その店には行列が出来て・・・」
「あの、4丁目の角の評判の店ですね。」
市長も知っていた。
「実はその店に問題があるんです。」
「何かあったんですか?その店で・・・。」
男は続けた。
「甥っ子がその店で食べ過ぎてお腹を壊しました。美味すぎるからいけないんです。」
市長は気の毒だとは思ったが、美味い料理が悪いとは思わなかった。
「問題はそれだけではありません。実は従業員100名を誇る私の店に、ぱったりと客が寄りつかなくなりました。売り上げは落ち、私は従業員を解雇せねばならないほどに追いつめられています。」
市長はこの男が何を訴えにきたのかだんだん分かってきた。
「この街で暮らす人の働く場と健康を守るのがあなたの仕事ではありませんか?」
市長はノーとは言えなかった。
「ならば、新しい条例を作ってください。」
「どんな条例ですか?」
「『健康のために美味しい料理を作ってはいけない』という条例です。」
市長はその話を聞いて呆れ果て男を追い出した。
”何が健康のためだ。いくらなんでも、そんなわがまま勝手を許すわけにはいかない。”
市長はそう考えた。
ところがまもなく議会が開かれ男が主張していた条例案が提出された。
しかも賛成多数であっという間に可決してしまった。
賛成票を投じた議員達に理由を聞こうと近づいても目さえ合わせてくれない。
調べてみると賛成した議員の親戚には男のレストランで働いている従業員がいるこが分かった。
さらに、それ以外の議員が男に買収されていることも分かった。
その後の市長の奮闘もむなしく、ついに条例が施行される日がやってきた。
その日以来、評判の店の味は「これでもか」という声が聞こえるくらいに落ちた。
やがて行列は消えその店の看板も消えた。
だからといって、男の店に客が戻った訳ではない。
鳴き叫ぶ閑古鳥の声に追われるように従業員は去って行った。
”美味しい料理を目指さない店はレストランとは呼べない。”
やがて従業員らは仕事があるとなりの街に引っ越した。
市長も辞職して普通の人になりとなりの街に引っ越した。
となりの街には
一足先に評判の店も引っ越していた。
ー2002/10/7
*この話はもちろんフィクションです。
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