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スキップ少年の謎


 筆者がその少年を目撃したのは日曜日の午後三時過ぎ。とある小さな店の中で用が済んで帰る少年がスキップをしながら外に出て行ったのた。少年をスキップに駆り立てたのは何だったのだろうか?

 望んでもいないのに勝手に伸びてしまうものには髪の毛、爪、そして男性特有の髭(ひげ)がある。手入れの加減で個性を主張することもできるが、長くなると邪魔になり鬱陶(うっとお)しいので切りたくなる。

 切るべき髪を切らずに先に延ばす怠惰な自分を楽しめる時期が過ぎると、いい加減切りたいと思う気持ちが強くなる。そこへ、10分1000円でカットしてくれるアメリカンスタイルの店が出来たという知らせが入ってきた。『渡りに船』と、その店に出かけてみることにした。

 ”ここは確か天ぷら屋さんがあったところ”だ。和風の店構えだったのが、中が良く見えるガラス張りに変わっている。ドアを見るとタッチ式だ。これなら客が溢れてドアの前まで並んでも自動的にドアが開いて外から冷たい風が吹き込むことも無い。

 中に入ると座りきれないくらいに並んでいた。スタッフは三名。1人10分なら30分位待てば順番が回ってくる。左側の壁に掛かった小さな自動販売機で券を買った。カットしてもらう前にスタッフにこの券を渡すシステムになっているようだ。言わばコレは”プリペイド”タイプで、これなら食い逃げならぬ”刈られ逃げ”は原理的にありえない。

 異様な風景といえば、天井から伸びた黒いホース。キューンと音を立てながら切った髪の毛などを吸い込む様は大蛇が人の頭に食らいついているようにも見える。

 カットだけなのでイスの前には鏡が一枚あるだけで、前かがみになって髪を洗うための洗面台は無い。髭をそるための剃刀も無い。熱すぎすると客の顔に落としてしまいかねない蒸しタオルも無い。

 似て非なるのは理容師と美容師。その違いのひとつに理容師なら髭剃りのための刃物を使えることがある。カットだけなら理容師も美容師もこの店で働けることになる。

 そんなことを考えているうちに自分の番がやってきた。厚手の紙で出来た券をスタッフに渡し鏡の前のイスに座る。一般の理容店のイスが社長のイスなら、ここのイスは課長のイスだろうか、座りごこちは悪くない。ペダルを踏んでイスを上下させる機能はついていない。髭剃りが無くなり刃物を使うことが無くなったため、正確な上下の位置合わせが要らなくなったのかも知れない。

 カットが一通り終わると筆者の頭にも黒い大蛇が食らいついてきた。見た目の異様さとは対照的に未知の心地良い感触を味わえる。

 スタッフのお姉さんが操る大蛇の舞は目の前の鏡を通して鑑賞することが出来る。散髪が終わった少年がスキップをしながら帰った謎が少し解けた様な気がした。

-2002/11/26


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